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技術と未来

研究力・博士人材の弱体化とは? 日本の科学に何が起きているのか

ほかの研究者によく引用される「注目度の高い論文」の数で、日本の順位は20年前の世界4位から13位に下がりました。研究を担う博士課程の入学者も、ピークの2003年度より少ないままです。研究の力は、新しい技術や産業、医療の土台になります。

データ確認日:

原因から影響までの流れ

  1. 博士課程に進む人の伸び悩み
  2. 若手研究者の任期つき雇用
  3. 研究力・博士人材の弱体化
  4. 技術革新・生産性の伸び悩み

矢印は、統計的に証明された因果関係ではなく、主な伝わり方を示しています。

いま何が起きている?

研究の成果は、おもに論文として発表されます。文部科学省の科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) は、毎年、各国の論文の数を集計しています。2022〜2024年の平均で、日本の論文数は6万6,214本で世界5位でした。[2]

ただし、ほかの論文に引用された回数が各分野の上位10%に入るTop10%補正論文数 (注目度の高い論文の数) では、日本は3,163本で13位です。前年の集計と同じ順位でした。1位は中国の8万4,392本、2位は米国の2万9,911本です。[3]

将来の研究を担う博士課程の入学者数は、2025年度に1万6,212人でした。2023年度から3年続けて増えていますが、最も多かった2003年度の1万8,232人には届いていません。[2]

数字で見る

日本の論文数と世界順位 (各3年間の平均、分数カウント法)
期間論文数順位Top10%補正論文数順位
2002〜2004年6万7,513本2位4,544本4位
2012〜2014年6万4,866本3位4,309本7位
2022〜2024年6万6,214本5位3,163本13位

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」

日本の論文数そのものは、20年前とほぼ同じ水準です。そのあいだに世界全体の論文が増え、中国やインドなどが大きく数を伸ばしたため、日本の順位と世界に占める割合が下がりました。注目度の高い論文は、本数そのものも減っています。[2]

大学院博士課程の入学者数
  • 2003年度 18,232人
  • 2010年度 16,471人
  • 2015年度 15,283人
  • 2022年度 14,382人
  • 2025年度 16,212人

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」

人口100万人あたりの博士号取得者数は、日本が2010年度の131人から2023年度に124人へ減りました。同じ集計で、韓国は383人 (2024年)、英国は373人 (2023年)、ドイツは337人 (2024年)、米国は253人 (2023年) です。[2]

なぜ起きる?

主な伝わり方は3つあると考えられています。1つ目は、研究者の働き口の不安定さです。雇用の期間が決まっている任期つきの研究者は、2025年3月末時点で大学全体の36.2%、国立大学では42.5%でした (全年齢の教員と研究員の合計)。数年ごとに次の職を探す必要があると、時間のかかる研究に取り組みにくくなります。[2]

2つ目は、博士課程に進むことへの不安です。博士号を取るまでの生活費や、取ったあとの就職先が見えにくいと、進学をためらう人が増えます。文部科学省は2024年3月に「博士人材活躍プラン」をまとめ、企業などでの活躍の場を広げることや、学生が研究に打ち込める環境づくりを掲げました。[4]

3つ目は、ほかの国の伸びです。日本の研究開発費は2020年代に入って増える傾向にあります。ただ、研究開発費と研究者数はどちらも中国が1位、米国が2位で、日本は3位です。規模の大きい国と、注目される論文の数で競うことになります。[3]

このほか、大学の先生が研究に使える時間の減少や、研究費の配り方、海外の研究者との共同研究の少なさなども指摘されています。どの要因がどれだけ効いているかは、専門家のあいだでも見方が分かれます。

よくある誤解

よくある誤解

「日本の論文の数が大きく減った」

実際は

論文数は2002〜2004年の平均で6万7,513本、2022〜2024年の平均で6万6,214本と、ほぼ同じです。変わったのは、世界のなかでの順位 (2位から5位) と、注目度の高い論文の数です。[2]

よくある誤解

「博士課程に進む人は減り続けている」

実際は

入学者数は2022年度の1万4,382人まで減ったあと、2023年度から3年続けて増え、2025年度は1万6,212人でした。この傾向が続くかどうかは、これからの数字を見る必要があります。[2]

よくある誤解

「論文の順位が下がったのだから、日本の科学技術はすべて弱くなった」

実際は

論文は研究力を測るものさしの1つです。2か国以上に出願された特許の数 (パテントファミリー数) では、日本は引き続き世界1位です。指標によって見え方が変わります。[3]

どんな選択肢がある?

どれかひとつが正解というわけではありません。それぞれに、期待できることと、負担や副作用があります。

博士課程の学生への経済的な支援を厚くする

期待できること
生活費の心配が減り、進学をあきらめる人を減らせる可能性があります。文部科学省は、2040年に人口100万人あたりの博士号取得者数を2020年度の約3倍にする目標を掲げています。[4]
負担・副作用
財源が必要です。博士号を取ったあとの働き口が増えなければ、就職に悩む人が増えるおそれがあります。

若手研究者の安定した雇用を増やす

期待できること
腰をすえて、時間のかかる研究に取り組みやすくなります。
負担・副作用
大学の人件費が長く固定されます。ポストの数が限られると、あとの世代が職に就きにくくなることがあります。

一部の大学や分野に資金を集中させる

期待できること
世界の上位と競える研究拠点をつくりやすくなります。国は「国際卓越研究大学」を認定して大学ファンドから助成するしくみを設け、2026年1月には東京科学大学を認定しました。[5]
負担・副作用
選ばれなかった大学や分野との差が広がります。どの研究が将来伸びるかを前もって見きわめるのは難しいという指摘もあります。

幅広い大学に基盤となる資金を配る

期待できること
多様な研究の芽を育てやすく、地方の大学の研究も保ちやすくなります。
負担・副作用
1か所あたりの額は小さくなり、大型の設備や国際的な競争に必要な規模を確保しにくくなります。

企業が博士人材を採用しやすくする

期待できること
大学以外の進路が広がり、博士課程に進む不安をやわらげられます。
負担・副作用
企業が求める力と大学院での教育をすり合わせる必要があり、効果が出るまでに時間がかかります。

これから見るべき指標

Top10%補正論文数と世界順位
注目度の高い論文の数です。NISTEPの「科学技術指標」で毎年8月ごろに公表されます。

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標 (科学技術指標2026、NISTEP REPORT No.212)」

博士課程の入学者数
文部科学省の学校基本調査で毎年度わかります。社会人とそれ以外の内訳も手がかりになります。

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」

人口100万人あたりの博士号取得者数
国の大きさをそろえて、博士人材の厚みを比べる数字です。

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」

大学の任期つき研究者の割合
研究者の雇用がどれだけ安定しているかの目安です。総務省の科学技術研究調査をもとに集計されます。

出典: 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」

ほかの問題とのつながり

この課題は、次の課題の原因や結果になっています。つながりは「主な伝わり方」であり、統計的に証明された因果関係とは限りません。

  • 技術と未来

    AIなどの新しい技術を生み出し、使いこなす人材は、大学や大学院での研究を通じて育ちます。

  • 教育と子ども

    海外から研究者や留学生を呼び込めるかどうかは、大学の研究環境の魅力に左右されます。

  • 暮らしと経済

    研究から生まれる新しい技術や知識は、長い目で見て生産性を高める土台になります。

出典・更新日

データ確認日:

  1. [1] 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標 (科学技術指標2026、NISTEP REPORT No.212)」 公表: 2026年8月 / 確認: 2026年10月11日
  2. [2] 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 統計集 (表2-2-15、表3-1-3、表3-3-3、表4-1-6)」 公表: 2026年8月 / 確認: 2026年10月11日
  3. [3] 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)「科学技術指標2026 解説資料」 公表: 2026年8月 / 確認: 2026年10月11日
  4. [4] 文部科学省「「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」について」 公表: 2024年3月 / 確認: 2026年10月11日
  5. [5] 文部科学省「国際卓越研究大学の認定について (東京科学大学)」 公表: 2026年1月 / 確認: 2026年10月11日

誤りや古い数字を見つけたら、GitHub でこの記事のデータを直して Pull Request を出すか、Issue で教えてください。