世界と安全保障
地政学リスクとは? 日本のまわりで何が起きているのか
地政学リスクとは、国と国の対立や軍事的な緊張が、安全や経済に影響をおよぼすおそれのことです。日本は、周りの国々の軍事的な動きに備えながら、貿易やエネルギーの多くを海外に頼っています。遠くで起きた対立が、ガソリンや食料品の値段として暮らしに届くことがあります。
データ確認日:
-
自衛隊機の緊急発進 (スクランブル)
595回
2025年度 (2026年3月31日現在)
-
防衛関係費 (防衛力整備計画対象経費)
8兆8,093億円
2026年度当初予算
-
貿易総額に占める中国との貿易の割合
約20%
2025年 (確々報の金額から計算)
原因から影響までの流れ
- 大国どうしの競争
- 周辺での軍事活動の活発化
- 地政学リスクの高まり
- 防衛の負担・貿易やエネルギーの不安定
矢印は、統計的に証明された因果関係ではなく、主な伝わり方を示しています。
いま何が起きている?
政府は、2022年12月に決めた国家安全保障戦略で、日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面しているとしています。この戦略は、中国の動きを「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアの動きを「安全保障上の強い懸念」と位置づけています。あわせて、中国とは「建設的かつ安定的な関係」を築いていくとも書いています。[3]
外国の航空機が日本の領空に近づいたとき、自衛隊の戦闘機が確認のために飛び立つことを緊急発進 (スクランブル) といいます。2025年度は595回で、対象は推定を含めて中国機が366回、ロシア機が214回でした。[2]
日本から離れた地域の緊張も影響します。令和8年版の防衛白書によると、2026年2月以降、イスラエル・米国とイランのあいだで攻撃の応酬が起き、イランは原油の通り道であるホルムズ海峡の封鎖を宣言しました。同年4月に2週間の停戦で合意し、6月には双方が戦闘終結などに関する覚書への署名を発表しています。白書は、日本が原油輸入量の約9割を中東に頼っているとしています。[1]
数字で見る
| 年度 | 合計 | 中国機 | ロシア機 |
|---|---|---|---|
| 2021年度 | 1,004回 | 722回 | 266回 |
| 2022年度 | 778回 | 575回 | 150回 |
| 2023年度 | 669回 | 479回 | 174回 |
| 2024年度 | 704回 | 464回 | 237回 |
| 2025年度 | 595回 | 366回 | 214回 |
緊急発進は2021年度の1,004回からは減っています。防衛省は、2025年度の特徴として、5月に領空侵犯が1件あったことや、12月に中国軍とロシア軍の爆撃機が四国沖の太平洋まで共同で飛行したことなどを挙げています。[2]
- 2021年 6発
- 2022年 59発
- 2023年 25発
- 2024年 22発
- 2025年 5発
- 2026年 9発
経済の面では、中国は日本の最大の貿易相手国です。2025年 (確々報) の中国との輸出入の合計は約45.5兆円で、日本の貿易総額の約20%にあたります。輸入だけを見ると約24%です。米国との輸出入の合計は約33.3兆円で、約15%でした (割合は公表された金額からの計算)。[5]
なぜ起きる?
主な伝わり方は3つあると考えられています。1つ目は、国どうしの力関係の変化です。防衛白書によると、中国が公表している2026年度の国防予算は約1兆9,095億元で、日本の防衛関係費の約4.6倍にあたります。[1] 軍事力の差が広がると、周りの国は備えを強めようとし、それがさらに相手の警戒を招くことがあります。
2つ目は、日本の位置です。日本は中国、ロシア、北朝鮮と海をはさんで向かい合い、領土や海の境界をめぐる意見の違いも抱えています。台湾海峡や朝鮮半島で緊張が高まれば、近くにある日本も影響を受けやすくなります。
3つ目は、海外への頼り方です。日本は原油輸入量の約9割を中東に頼っています。[1] 貿易では中国が輸入の約24%を占めます。[5] 安全保障で警戒している相手や、不安定な地域と、経済では深く結びついているため、対立が強まると物の値段や企業の活動に影響が出やすくなります。
こうした状況を受けて、日本の2026年度の防衛関係費 (防衛力整備計画対象経費) は8兆8,093億円で、前の年度より3.9%増えました。防衛大臣は白書の巻頭で、国家安全保障戦略などの3つの文書を2026年中に前倒しで改定するとしています。[1]
よくある誤解
よくある誤解
「地政学リスクは、戦争が起きなければ関係ない」
実際は
実際に戦いが起きなくても、緊張が高まるだけで影響は出ます。2025年度の緊急発進は595回あり、自衛隊は日常的に対応しています。[2] 海峡の封鎖や輸出の制限は、燃料や部品の値段を通じて暮らしや企業に届きます。
よくある誤解
「安全保障で対立している国とは、経済の関係も薄い」
実際は
政府は国家安全保障戦略で、中国の動きを安全保障上の「最大の戦略的な挑戦」と位置づけています。[3] その中国は、金額で見ると日本の最大の貿易相手国で、2025年 (確々報) の日本の輸入の約24%は中国からでした。[5] 警戒と協力の両方が同時にあるのが実態です。
よくある誤解
「防衛費を増やせば、それだけ安全になる」
実際は
国家安全保障戦略は、安全を守る力として、防衛力の前にまず外交力を挙げ、経済力や技術力なども合わせて使うとしています。[3] 予算が増えても、人材や装備の生産が追いつかなければ力になりません。相手国がさらに軍備を増やす可能性も考える必要があります。
どんな選択肢がある?
どれかひとつが正解というわけではありません。それぞれに、期待できることと、負担や副作用があります。
防衛力を強める
- 期待できること
- 攻撃しても成功しないと相手に思わせ、武力による現状変更を思いとどまらせる効果 (抑止) が期待されます。
- 負担・副作用
- 大きな財源が必要で、税や国債、ほかの予算の見直しなどで負担が生じます。相手国の警戒を強め、軍備の競争につながるという見方もあります。
同盟国や考えの近い国との協力を深める
- 期待できること
- 1国では足りない力を補い合えます。情報の共有や共同訓練で、備えの質を高められます。
- 負担・副作用
- 相手国の方針に左右されやすくなります。日本が直接関わらない対立に巻き込まれるおそれを心配する意見もあります。
対話と外交で緊張を下げる
- 期待できること
- 誤解や偶然の衝突を防ぎ、経済の関係も保ちやすくなります。費用は軍備より小さくてすみます。
- 負担・副作用
- 相手が応じなければ進みません。対話だけでは、力による一方的な動きを止められないという見方もあります。
経済の頼り先を分散する
- 期待できること
- エネルギーや重要な物資の調達先を増やし、備蓄を持てば、対立が起きたときの影響を小さくできます。
- 負担・副作用
- 安い調達先から切り替えるため、費用が上がります。価格として消費者や企業が負担することになります。
これから見るべき指標
- 緊急発進 (スクランブル) の回数
- 統合幕僚監部が四半期ごとと年度ごとに公表します。2025年度分は2026年4月に公表されました。
- 北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射数
- 防衛白書に年ごとの発射数がまとめられています。
- 防衛関係費
- 毎年度の予算で決まります。金額だけでなく、何に使うかの内訳もあわせて見ることが大切です。
- 国・地域別の貿易額
- 財務省の貿易統計で、相手国ごとの輸出入額が毎月公表されます。年間の確々報は翌年3月ごろに出ます。
ほかの問題とのつながり
この課題は、次の課題の原因や結果になっています。つながりは「主な伝わり方」であり、統計的に証明された因果関係とは限りません。
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食料とエネルギー
エネルギー安全保障
記事あり原油の多くは中東から船で運ばれます。海峡の封鎖や紛争が起きると、燃料や電気の値段に影響します。
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食料とエネルギー
食料安全保障・低い食料自給率
記事あり穀物や肥料の多くを輸入に頼っているため、戦争や輸出の制限があると、食料の値段や量に響きます。
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世界と安全保障
半導体・重要物資の供給網依存
記事あり半導体や重要な鉱物を特定の国や地域に頼っていると、対立が強まったときに手に入りにくくなるおそれがあります。
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世界と安全保障
海洋資源・領土・EEZ問題
記事あり尖閣諸島の周辺など、日本のまわりの海での緊張は、地政学リスクが最も身近に表れる場面のひとつです。
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世界と安全保障
防衛人材・装備基盤の制約
記事あり防衛費を増やしても、自衛官のなり手や装備をつくる企業が足りなければ、備えは形になりません。
出典・更新日
データ確認日:
- [1] 防衛省「令和8年版 防衛白書 日本の防衛」 公表: 2026年 / 確認: 2026年10月11日
- [2] 防衛省 統合幕僚監部「2025年度 (令和7年度) 緊急発進実施状況について」 公表: 2026年4月 / 確認: 2026年10月11日
- [3] 内閣官房「国家安全保障戦略 (2022年12月16日 国家安全保障会議決定・閣議決定)」 公表: 2022年12月 / 確認: 2026年10月11日
- [4] 防衛省「令和8年版 防衛白書 図表I-3-4-4 北朝鮮の弾道ミサイルなどの発射の主な動向 (データ)」 公表: 2026年 / 確認: 2026年10月11日
- [5] 財務省「報道発表 令和7年分 貿易統計 (確々報)」 公表: 2026年3月 / 確認: 2026年10月11日
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