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政治・制度

企業ガバナンス・資本効率とは? 会社のお金の使い方が問われる理由

企業ガバナンスとは、会社の経営が正しく、効率よく行われているかを見張るしくみのことです。東京証券取引所は2023年から、上場会社に「集めたお金を成長に生かせているか」を点検するよう求めています。株式は年金の積立金などでも運用されており、会社が価値を高められるかどうかは、働く人の賃金や家計の資産にも関わります。

データ確認日:

原因から影響までの流れ

  1. 経営へのチェックの弱さ
  2. 現預金や持合い株式の積み上がり
  3. 資本効率の低さ
  4. 投資・賃金・成長の伸び悩み

矢印は、統計的に証明された因果関係ではなく、主な伝わり方を示しています。

いま何が起きている?

会社の値打ちを測る目安にPBR (株価純資産倍率) があります。株式市場での会社の値段が、帳簿上の純資産の何倍かを示す数字です。1倍を下回ると、市場は「この会社は持っている資産ほどの価値を生んでいない」と見ていることになります。

東京証券取引所 (東証) の集計では、2022年7月1日時点で、大企業が中心のプライム市場の50% (922社) がPBR1倍割れでした。東証は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場のすべての上場会社に、資本コスト (お金を出す株主や銀行が期待する見返り) や株価を意識した経営に取り組むよう求めました。[2][5]

2026年3月1日時点では、PBR1倍割れの会社はプライム市場で27% (424社)、スタンダード市場で49% (766社) に減りました。一方で、会社による差は残っています。取組みを開示した会社は、2026年8月末時点でプライム市場の94%に対し、スタンダード市場は57%です。[1][2]

数字で見る

PBR1倍割れ・ROE8%未満の会社の割合 (東証の集計)
市場指標2022年7月1日2026年3月1日
プライムPBR1倍割れ50% (922社)27% (424社)
プライムROE8%未満47% (857社)43% (684社)
スタンダードPBR1倍割れ64% (934社)49% (766社)
スタンダードROE8%未満63% (912社)60% (936社)

出典: 東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請のアップデート」

ROE (自己資本利益率) は、株主から預かったお金でどれだけ利益をあげたかを示します。PBR1倍割れの会社は大きく減りましたが、ROEが8%に届かない会社の割合はあまり変わっていません。株価の上昇に比べ、利益をあげる力の改善はゆるやかです。[2]

独立社外取締役が3分の1以上いる会社の割合 (2021年までは市場第一部、2022年からはプライム市場)
  • 2014年 6.4%
  • 2018年 33.6%
  • 2020年 58.7%
  • 2022年 92.1%
  • 2026年 98.8%

出典: 東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」

会社と利害関係のない立場から経営を見張る独立社外取締役は、この10年あまりで大きく増えました。ただ、取締役の過半数を占める会社はプライム市場の29.9%です (2026年7月14日時点)。前の年より3.7ポイント増えています。[3]

なぜ起きる?

主な伝わり方は3つあると考えられています。1つ目は、お金や資産が十分に生かされていない場合があることです。東証の資料は、成長投資や万一の備えを理由に現預金を多く持ちながら、その水準が適切かを具体的に確かめていない例があるという機関投資家の声を紹介しています。[2]

2つ目は、取引先どうしが互いの株を持ち合う政策保有株式です。取引関係を保つ助けになる一方、株主として経営に意見を言いにくくなり、その分のお金が事業に回らないと指摘されてきました。東証の資料でも、こうした株式を資本コストや見返りの観点から点検していない例があるという機関投資家の声が紹介されています。[2]

3つ目は、経営を外から見張る力です。社外取締役の人数は増えましたが、人数をそろえることと、実際に経営の判断に意見できることは別です。2026年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード (上場会社の行動の指針。2015年に適用が始まりました) は、独立社外取締役の役割や質の確保を強調しています。[4]

これらは日本の会社すべてに当てはまるわけではありません。雇用や取引先との長い関係を重んじる経営には、景気が悪いときに持ちこたえやすいという面もあり、評価は分かれます。

よくある誤解

よくある誤解

「ガバナンス改革とは、株主への配当や自社株買いを増やすことだ」

実際は

東証は、自社株買いや増配だけの対応や一時的な対応を期待しているのではないとしています。求めているのは、研究開発や人材への投資、事業の見直しなどを通じて、続けて資本コストを上回る利益をあげることです。[5]

よくある誤解

「社外取締役が増えたので、経営へのチェックは十分になった」

実際は

独立社外取締役が3分の1以上いる会社はプライム市場の98.8%ですが、過半数を占める会社は29.9%です (2026年7月14日時点)。2026年のコード改訂では、数だけでなく役割や質の確保が強調されました。[3][4]

よくある誤解

「PBRが1倍を超えれば、課題は解決したことになる」

実際は

PBRは株価の動きでも変わります。プライム市場でPBR1倍割れの会社は50%から27%に減りましたが、ROE8%未満の会社は47%から43%への変化にとどまっています (2022年7月1日と2026年3月1日の比較)。[2]

どんな選択肢がある?

どれかひとつが正解というわけではありません。それぞれに、期待できることと、負担や副作用があります。

開示や説明を求めるルールを強める

期待できること
会社どうしを比べやすくなり、取組みの遅れが見えやすくなります。東証は2024年1月から、取組みを開示した会社の一覧を毎月公表しています。[5]
負担・副作用
書類を整えることが目的になり、形だけの対応が増えるおそれがあります。規模の小さい会社ほど事務の負担が重くなります。

株主への還元を増やす

期待できること
使い道のないお金が株主に戻り、資本効率を示す数字は改善しやすくなります。
負担・副作用
将来に向けた投資や賃上げ、不況への備えに回るお金が減ることがあります。短い期間の株価を意識しすぎるという見方もあります。

成長に向けた投資を増やす

期待できること
設備、研究開発、人材への投資が実を結べば、利益と賃金の両方を伸ばせる可能性があります。2026年のコード改訂は、こうした経営資源の配分を説明するよう求めています。[4]
負担・副作用
投資は失敗することもあり、成果が出るまで時間がかかります。そのあいだ利益や株価が下がることがあります。

持合い株式の見直しを進める

期待できること
売って得たお金を事業に使え、株主からのチェックも働きやすくなります。
負担・副作用
長く続いた取引関係が変わることがあります。安定した株主が減り、買収の提案を受けやすくなる面もあります。

社外取締役の割合や役割を広げる

期待できること
社内の事情にとらわれない目で、経営を点検しやすくなります。
負担・副作用
事業をよく知る人材は限られます。人数を増やすだけでは、チェックの質は上がらないという指摘があります。

これから見るべき指標

PBR1倍割れ・ROE8%未満の会社の割合
会社が資産やお金を生かせているかの目安です。東証がフォローアップの資料で公表しています。

出典: 東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請のアップデート」

資本コストや株価を意識した取組みの開示状況
市場ごとの開示した会社の割合です。月末時点の状況が、翌月15日をめどに更新されます。

出典: 東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況 (2026年8月末時点)」

独立社外取締役の選任状況
3分の1以上、過半数を占める会社の割合です。毎年7月ごろに東証が公表します。

出典: 東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」

コーポレートガバナンス・コードへの対応
2026年7月に改訂されたコードに、各社がどう対応し、どう説明するかが手がかりになります。

出典: 金融庁「コーポレートガバナンス・コード (2026年改訂版) の確定について」

ほかの問題とのつながり

この課題は、次の課題の原因や結果になっています。つながりは「主な伝わり方」であり、統計的に証明された因果関係とは限りません。

  • 暮らしと経済

    会社がお金を設備や研究、人材に振り向けるかどうかは、生産性の伸びに関わります。

  • 暮らしと経済

    会社の投資が増えるかどうかは、経済全体の成長する力を左右します。

  • 暮らしと経済

    銀行なども取引先の株式を持っており、株価の動きは金融機関の経営にも影響します。

出典・更新日

データ確認日:

  1. [1] 東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況 (2026年8月末時点)」 公表: 2026年9月 / 確認: 2026年10月11日
  2. [2] 東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請のアップデート」 公表: 2026年4月 / 確認: 2026年10月11日
  3. [3] 東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」 公表: 2026年7月 / 確認: 2026年10月11日
  4. [4] 金融庁「コーポレートガバナンス・コード (2026年改訂版) の確定について」 公表: 2026年7月 / 確認: 2026年10月11日
  5. [5] 日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応 (プライム・スタンダード市場)」 確認: 2026年10月11日

誤りや古い数字を見つけたら、GitHub でこの記事のデータを直して Pull Request を出すか、Issue で教えてください。